13/03/10 OILED COTTON

今日は今シーズンからNEW VINTAGEで発売するオイルドジャケットの説明をしようと思います。

うちでは店を始めた時からOLD VINTAGEジャケットを販売しているので昔からゆかりのある素材ですが、
NEW VINTAGEでは初めて使用する素材です。
今や日常着となった革に比べ、オイルドコットンについてはよく知らない人も多いと思います。
まずは簡単に素材や歴史背景などの説明をしたいと思います。

まず、オイルドコットンとは今から100年以上前にイギリスで誕生した素材です。
ナイロンなどのハイテク素材がまだ開発されておらず、革製品が今以上に高級品だった時代に、
高密度のコットンにオイルを染み込ませることによって防水、防風性を持たせた素材です。
元々海で働く人達用に作られたようですが、
後に防水&耐久性が認められイギリス軍にも供給されるようになりました。

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その後イギリスのモーターサイクルシーンの盛り上がりと共に、
4ポケットのオイルドコットン製ジャケットが長きに渡りレーサーに愛用されます。

余談ですが、NEW VINTAGEのAD-01,AD-02デザインのシングル、
ダブルブレストのライダースは同時から数多くのブランドが発売していました。
そのデザインは50年以上経った今でも色褪せることなく数え切れない数の製品が発売されています。
このオイルドコットン製の4ポケットジャケットも、多少の違いはあれ、BELSTAFFやBARBOURをはじめ、
有名なブランドだけでもLEWIS LEATHERS,KETT,RIVETTS,MASCOT等
ほとんどのブランドがオイルドコットン、またはナイロン素材で発売していました。
日本では最近やっと認知され始めた気がしますが、
イギリスでは当時からとてもポピュラーなデザインだったわけです。

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そして第二次世界大戦後はジャケットのデザインが増えたこともあり、
狩猟が盛んなイギリスではハンティング、アウトドア全般のジャケットとしても使用されています。

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そして現在本国イギリスでは労働着とはしてはもちろん、まさに老若男女が、
アメリカや日本でも一部のコアなファンや感度の高い人達からファッションアイテムとして愛用しています。

私自身も10年ほど前からいくつかのOLD VINTAGEジャケットを愛用しています。
これだけ長く多くのフィールドで使用されている素材、デザインなので当たり前ですが機能的で、
バイクに乗る際はもちろん、春秋の肌寒い時期にタウンユースとしてカバーオールのような感覚で着ています。
ゆったりしたサイジングのものであれば、ジャケットの上から着る、オーバーコートとしても使えます。
カジュアルに着られるのはもちろん、さすがイギリスで生まれた素材やデザイン、
形によってはかなりスマートに着用できます。

OLD VINTAGEオイルドジャケットの表情にはいくつかの魅力があります。
1つはオイルが幾度も塗り重ねられ、
コーティングのようになったコットンジャケットとは思えない質感になったものです。
なんとも言えない雰囲気があり、レザーと見間違うようなものもありますが、
数十年の汚れと触るだけで手にオイルが残るのは日常生活では決して良いものではありません。
1人でバイクに乗る際は誰にも迷惑をかけませんが、
ファッションアイテムとして普段着るには電車や人が密集する公共の場では向きません。
そもそもイギリスよりも高温多湿の日本では、オイルを塗りたくったジャケットは適していません。
激しい雨よりも小雨の多いイギリスでは帽子やレインウェアで雨を防ぐことが可能ですが、
イギリスと違い雨が強く降る日本ではオイルを多く含んでいても雨を十分に防ぐことは出来ませんし、
そもそも顔や下半身が濡れてしまいます。

私物のOLD VINTAGEジャケットは今まで着る頻度の多い、とても好きなジャケットでしたが、
車に乗ったり、電車通勤が増えたりした最近ではもっぱらバイク専用になっていました。
元々ギアであるOLD VINTAGEジャケットは独特のオーラがありますが、
時に着る場所や環境を選びます。

そこでOLD VINTAGEジャケットではオイルが塗りたくられたものとは別の良い表情のジャケットがあります。
それは着用により自然にオイルが抜け、微妙に残っているか残っていないか、くらいの状態のジャケットです。
こればっかりはジャケットの歴代オーナーの使用状況によるので、限定して探すのは容易ではありませんが、
比較的コンディションの良いOLD VINTAGEジャケットはこの状態の場合があります。
臭いとオイルのべたつきもそれほどなく、生地の質感もただのコットンジャケットとは違った独特の状態です。

今回は数あるOLD VINTAGE ジャケットの雰囲気の中から、この雰囲気を再現して、
タウンユースに十分耐えられ、バイクに乗る際も機能的で、
OLD VINTAGEの雰囲気にも負けないジャケットを目指し1年以上前から製作を始めました。
裏地や金具などの付属品のほとんどを既製品ではなくオリジナルで作成しました。
私自身が普段またはバイクに乗る際着るつもりなので、いつも以上に熱が入ります。

現在日本でも良く耳にするイギリスの有名なオイルドコットン素材のメーカーがあります。
1STサンプル作成時にはこの生地を使用しました。
綿は生地の段階では革よりも差を感じるのが難しく、出来上がったサンプルはオイルのべたつきが激しいので、
洗いによって少し残す程度に落とす方法と、落としきってから加工を施す方法の2つを試しました。
悪くはありませんでしたが、そのサンプルは自分で着たいと思える出来ではありませんでした。
このメーカーの生地を使えばある程度上手くいくと思っていただけにショックでしたが、
エンジニアブーツ作成時同様、更に作り込む為に一からやり直しです。

そしてその有名なオイルドコットン生地を使用するのは止めて、
イメージする製品に仕上がるよう、コットン生地自体を探しに探して2NDサンプルが出来上がりました。
生地自体は1STサンプルよりイメージに近いはずなのですが、
加工との相性が悪く出来上がったサンプルは1STと比べ全く前に進んでいませんでした。
興味の無い人が見たら1STと2NDサンプルの違いでは大きな差は感じられないかもしれませんが、
私がイメージするオイルの程よく抜けた、あのドライな質感には程遠かったです。
これは本当に難しい………..

3RDサンプルでは更に生地を数種類、加工の方法も数種類試しました。
そして3RDサンプルでイメージする、あの質感と雰囲気を出すことが出来ました。

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これらは発売する製品ではなく今回作成したサンプルです。これ以外にもまだいくつかあります。
1つ2つのジャケットの為にこれだけ時間とサンプルを作っていたら完全に赤字ですが、
その分自分でも末永く着たいと思える良いジャケットが出来ました。

実物の製品画像と共に詳しい紹介をしたいところですが、
既にかなり長くなってしまったので詳細はまた明日。

ADDICT CLOTHES NEW VINTAGE 
石嶋 聡