12/09/14 ENGINEER BOOTS 作成過程

今日は今月発売予定のエンジニアブーツの製作過程について書きたいと思います。
まず通常ここまで製作過程の説明することはないのですが、
約2年かかったこのエンジニアブーツには私自身とても愛情があります。
いい物は物自身が語ってくれるので、細かい説明は要らないかもしれませんが、
ただなんとなくブーツを作ったわけではないということ、
ライダースに限らずNEW VINTAGEでの物作りについての想いを知ってもらう為に書こうと思います。
久しぶりに長いので(笑)、時間があるときにでも読んでください。

初めにエンジニアブーツを作ろうと思ったきっかけですが、それは当然自給自足と言いますか、
私自身が欲しいと思えるブーツが買える場所、お店がなかったからです。
物には作られる意味が色々ありますが、例えば普通売上の為にいろんな物を作りますよね?
Tシャツも作ればシャツもジーパンもレザージャケットも、アクセサリーなんかも。
それが普通だと思い私も発売していない物を含め色々作りましたが、
やっぱり想いが弱い物、経験値が低い物、作る意味の弱い物は、
それらが強い物に対して説得力がありませんし、見た瞬間ダメなのがわかります。
ある程度の物は簡単に作れる時代ですが、今私がレザー製品以外の物をあまり作らない理由はそれです。
ヴィンテージウェアが長い時間が経っても色褪せないのは、当時のギアであり、
ギアというのは必然から生まれたものだからです。

私自身エンジニアブーツはここ数年新品で欲しいと思う物をずっと探していましたが、
実際購入するまでにはなかなかいかず、
ヴィンテージブーツを数足、アパレルブランドのブーツをいくつか履きまわしていました。
古くからさかのぼれば、中学生の頃RED WINGに出会ってから今まで色々履いてきましたが、
それぞれ独自の良さはあっても、
物の好みが固まってきた現在の私の好みを十分に満たしてくれるエンジニアブーツはありませんでした。
革、縫製、バックル、木型、その他細かい仕様など、既に完成されたエンジニアブーツというジャンルでも、
1つ1つ細かく違うことによって大きな違いが生まれます。
私の理想とするブーツ像は、当時のギアだったヴィンテージブーツやブーツ専門ブランドに負けないタフさを持ち、
本気の作りでありながら、無骨になりすぎない、シャープで洗練されたエンジニアブーツです。
シャープで洗練されたエンジニアブーツはアパレルブランドの物を探せばあると思うのですが、
それだけだと私は物足りません。
その両方をうまく組み合わせた、エンジニアブーツを作り私自身履いてみたいと思い、
2年ほど前から制作に取り掛かりました。

まず知人からいくつか靴工場を紹介してもらい、
片道数時間かけて直接工場の社長や担当者と私がどういった物をつくりたいか説明する為と、
靴作りとなると完全に初めてなので、最終の完成までの流れを知る為打ち合わせに行きました。
この工場がグッドイヤーウェルト製法が得意な点と、
いくつか知っているブランドのエンジニアブーツを作っていることもあり、
この工場で1stサンプルの作成することに決めました。

約1ヶ月後、新旧問わず私が気に入ってるブーツを全て工場に持ち込み木型作成の打ち合わせです。
持ち込んだ見本を1つずつ説明しながら理想とする形の木型を作る為細かく説明していきます。
革は手持ちのステアハイドでブーツに使える革があったので、それを使用して1STサンプルを依頼しました。
こういうブーツを作りたい、というイメージはかなり出来ていたとはいえ、
結果は初めて作るエンジニアブーツということもあり、全く話にならない出来でした。

そこから2ndサンプルに着手するわけですが、
革を1stから変更する為取引しているタンナーに理想を伝え用意してもらいました。
その後また工場に出向き担当者と木型の修正を行いました。
木型の修正、革の手配どちらも1ヶ月はかかります。そしてそこから縫製に入りますので、約2ヶ月後、
最初に工場に行ってから半年経った頃に2ndサンプルが届きました。
結果は1stよりも良くはなりましたが、理想には程遠い出来……..
まず私自身が私物のブーツよりも履きたいと思えるレベルまでいかなければ発売はできません。
ADDICT CLOTHES NEW VINTAGEで発売する製品において、
ライダースは良いけどブーツはあんまり……….. みたいな事は絶対に言わせたくありません。
理想に近づける為、革とソールを変更し、更に木型を修正しなければいけません。
再度革を探し、木型修正の為工場まで打ち合わせに向かいました。
先が見えない中、木型の修正を中心に細かいディティールを詰めるミーティングをし、
3rdサンプルの仕上がりを待ちました。

そして1~2ヶ月後、3rdサンプルが完成しました。
この3rdサンプルでかなり理想の形に近づき、卸の取引をしているディーラーさんには早く発売してくれ!
このサンプルブーツよりかっこよくないの沢山売ってるから大丈夫、と半分冗談でせかされましたが、
既に時間と経費もかなりかかっているので早く発売までいきたいところですが、
この時更に修正すれば良くなるのが想像できていたので、
もう1回修正し、4thサンプルの制作に取り掛かることにしました。

既にこの時点で最初に工場に出向いてから1年は経過しており、3回分の木型代、サンプル縫製代、
打ち合わせの度に直接工場まで出向いた時間と旅費、革別注のロットやロス分を考えると、
最初にADDICT CLOTHES NEW VINTAGEでライダースを作ったときよりも苦労していました。
金銭的なこともそうですが、なによりサンプルが上がってくる度にまだこれでは駄目だ、
と自分に言い聞かせるのが大変でしたね。
今回のようなブーツのサンプルを再度修正する場合、展示会の量産ベースで物を作っていると、
次回の展示会に回すことになり実際発売するまで1年近く延期することになります。
一経営者としては、3回目のサンプルで展示会に出して量産までいきたかったのが本音でしたが、
作り手としては、私自身が他のブーツよりも履きたいと思えるレベルでないと意味がないということと、
どこに出しても負けないブーツを作りたいという気持ちが圧倒的に上回っていました。

そして4thサンプル作成の準備に取り掛かるのですが、まず木型を修正です。
今までは靴工場で担当者に木型の修正内容を伝えていたのですが、2回直してまだ不満が残っていたので、
今度は木型職人さんにも参加してもらい、私と縫製担当者、木型職人さんと3人で過去の木型とサンプル、
イメージに近いブーツをいくつか並べて打ち合わせを始めました。
既に2回修正して、職人さんも交えての打ち合わせなので良い内容で進み、
革もいろいろ試した結果、今回使用したものに落ち着き、細かいディティールを詰め、
あとは2ヶ月後のサンプル納品を待つだけとなりました。

そして納品されたサンプルは箱を開けた瞬間、3rdサンプルとは見違えていました。
しかしこの段階ではブーツはアッパーしか出来上がっていません。
途中からソールはスペシャリストの福禄寿、奥山くんにお願いしているので、
4thサンプルを指定のソールを付けてもらいました。
福禄寿が良い仕事をすることはもはや説明する必要はないと思います。
最初の段階では一部のソールに限定して福禄寿でソールつけをする予定でしたが、
最終的には全てお願いすることにしました。
靴工場でソールまで全て仕上げて縫製してもらえば、コストはもちろん製作期間も短期間で済みます。
福禄寿を経由するとさらに1ヶ月から2ヶ月ソール付けに時間がかかりますので、
革調達に1ヶ月、アッパー縫製に1ヶ月~2ヶ月、ソール付けに1ヶ月~2ヶ月で、
生産に計4ヶ月~5ヶ月必要になります。
それでもソールを福禄寿にお願いすることに決めたのは、
同じブーツで福禄寿と靴工場でソールつけをした物を並べてみると、
そこまでブーツを見てない人にはわからないかもしれませんが、そこには歴然の差があります。
私がどちらを履きたいか、NEW VINTAGEのコンセプトにどちらが基づいているか、
コスト云々よりも、私が純粋に自信を持って売れるものを作りたい気持ちはライダースもブーツも同じです。
今後ほぼ仕上がりに変化のないソールを使用する場合は靴工場で仕上げまでするかもしれませんが、
エンジニアブーツの仕上げは基本的に全て、福禄寿にお願いすることになります。

ソール付けのコストは上がりましたが、税込89250円に抑えて販売することにしました。
十分高価なブーツですが、通常このコストだと10万円クラスのブーツになってしまいます。
今このクラスのブーツを履いていない人にもぜひチャレンジしてもらいたい気持ちと、
1足目が気に入ってもらった時、次の色違いを買いやすいようにできる限り価格を抑えました。
この価格帯のブーツはもちろん、もっと高価な価格のブーツにも見劣りしないと自信を持って言えます。

そして最近いつも履いているブーツが以前ブログにも画像を出した4thサンプルです。
2ヶ月手入れなしで毎日履いているので良い感じに革とウェルトがやれてきました。


これまでの長い道のりをここで文章にまとめて伝えるのはとても難しいのですが、
今回は生産背景がなるべく見えるよう、できるだけわかりやすいように書いてみました。

2年前最初に靴工場に行ったとき、まさかここまで苦労するとは思ってもみませんでした。
しかし苦労に苦労を重ねた分、どこに出しても恥ずかしくないエンジニアブーツができ満足しています。
工場からサンプルが戻ってから毎日履いていますが、
とりあえずこれでエンジニアブーツが欲しいと思っても他に探しに行くことはなくなりました。

次回、3種類発売するブーツを個別に紹介したいと思います。

ADDICT CLOTHES NEW VINTAGE 
石嶋 聡